こんにちは、ヴァルトの小野です。
現在の日本の家づくりは、壁の中に湿気を入れないようにビニールシートなどで「防湿(止める)」する設計が主流です。その一方で、他社の見学会などで「うちは高透湿な素材を使っているから、壁の中が深呼吸して結露しませんよ」というお話を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、建築物理学というプロの視点から少しだけ掘り下げてみますと、主流である「防湿」にも、一部で言われる「単なる高透湿」にも、実は家を内部から傷めてしまうリスクが残る場合があります。
「湿気を止めれば安心」「湿気を通す素材=良い家」と単純に言い切ることは、実は少し難しいのです。今回は、家を本当に長持ちさせるために私たちが計算している、少しマニアックですが非常に重要な「壁の中の物理法則」について解説させてください。
「止める防湿」と「単なる高透湿」が引き起こす、壁の中の渋滞
なぜ、主流の「防湿」や、ただ湿気を通すだけの「高透湿」では心配なのでしょうか?
それは、どちらも湿気の「入り口」と「出口」のバランスが計算されていないケースがあるためです。
現代の一般的な日本の家(防湿路線)は、室内側に「防湿シート」を貼り、屋外側に地震対策の「構造用合板」を貼ります。
万が一、不測の事態で室内側のシートの隙間から湿気が入り込んでしまうと、外側の分厚い合板に塞がれて湿気が抜けにくくなる、という弱点を抱えやすくなります。
また、「高透湿」を謳う家であっても、最終的な出口となる外側の壁(外壁や合板など)が湿気を通しにくければ同じことです。
室内から壁の中に入り込んだ大量の湿気は、外に出られずに壁の中で渋滞を起こしてしまうかもしれません。行き場を失った湿気が冷やされて水滴となる「内部結露」は、大切な柱などを傷める原因の一つになります。
大切なのは、「湿気を止めれば安心・通せば安心」といった素材の話だけでなく、「万が一入ってきた湿気を、確実に外へ逃がせる計算」なのです。
湿気の通りにくさを数値化する「sd値」とは?
ここで、私たちが設計で用いる「sd値(等価空気層厚:とうかくうきそうあつ)」という指標をご紹介します。
漢字が並んで難しそうですが、考え方はとてもシンプルです。
これは、建材の湿気の通りにくさを「空気〇メートル分の厚さと同じか」に置き換えた数値です。
例えば、「sd値=1m」なら空気1メートル分、「sd値=50m」なら空気50メートル分の厚さの壁、ということです。数字が大きいほど、湿気を通さない分厚いガードになります。
一般的な防湿シートはsd値が50m以上、外側に貼る構造用合板はsd値が4〜10m程度にもなります。数字で見ると、一度壁の中に湿気が入ってしまうといかに出口を見つけにくいかが分かりますよね。
ヴァルトの核心は「透湿勾配」を計算すること
この問題を解決し、壁の中を常に乾燥した安全な状態に保つための、大切な物理の考え方があります。それが「透湿勾配(とうしつこうばい)」です。
透湿勾配とは、「室内側は湿気を入りにくくし、外側に向かうにつれて圧倒的に湿気を抜けやすくする」というバランスのことです。
ヴァルトの家では、この勾配を「sd値」の計算によって緻密にデザインしています。
- 【入り口(室内側)】 sd値 2〜3m程度 (適度に湿気を抑えるブレーキ)
- 【出 口(屋外側)】 sd値 0.1〜0.2m程度 (入ってきた湿気を速やかに逃がす出口)
室内側から屋外側に向かって、湿気がまるで滑り台を転がり落ちるように、スムーズに外へ流れていく道筋(勾配)を作っているのです。
感覚ではなく、計算で家を設計し建てる
「シートで密閉するから結露しない」「自然素材で高透湿だから大丈夫」。
こうした感覚的な言葉だけで家づくりを進めるのは、少し心配な面もあります。
私たちは、部材一つひとつの「sd値」を計算式に当てはめ、「外側に向かって透湿勾配が正しく作られているか」をしっかりと計算してから設計しています。
この計算し尽くされた「透湿勾配」があるからこそ、不測の事態で壁の中に湿気が入っても瞬時に外へ排出され、家が何十年も長持ちするのです。
少し専門的なお話になってしまいましたが、モデルハウスではこの「壁の断面構造」を実物でお見せしながら、さらに分かりやすくご説明しています。ぜひ、私たちの「計算された滑り台」を見に来てください。
