社長コラム

ヴァルトの家の性能や家づくりについて具体的に紹介します。

社長コラム

機械に頼らず300年生きる家

建築物理学で解き明かす「呼吸する家」の真実。
機械に頼らず300年住み継ぐための湿気対策と断熱材の科学

「家を長持ちさせたい」「結露やカビのない家に住みたい」。そう願うなら、感覚的な「風通し」ではなく、科学的な「水分の管理」を知る必要があります。
今回は、ニール・メイ氏の提唱する建築物理学の視点から、日本の住宅寿命を縮める「水」の正体と、それを解決する「呼吸する素材(木質繊維断熱材)」について解説します。

1. なぜ99%の人が誤解するのか?「通気」と「透湿」の決定的な違い

テーマ:総論・物理的定義

「呼吸する家」という言葉は、住宅業界で最も誤解されているマーケティング用語の一つです。
多くの人はこれを「風通しの良さ(Air Permeability / 空気の移動)」だと思っていますが、建築物理学的には完全に間違いです。

私たちが設計の核とする「Breathability(ブリーザビリティ)」とは、空気の話ではなく、「水(H2O)」をどうマネジメントするかという、極めて科学的なアプローチです。

建物の死因、75%は「水」である

建築病理学において、建物の不具合や劣化の75%は「水」に起因するというデータがあります。
現代の高気密住宅の多くは、ビニールシートで家をラッピングし、機械で空気を強制的に入れ替える「密閉箱」のような構造です。しかし、どれだけ気密(Air tightness)を高めても、生活水蒸気や予期せぬピンホールからの浸入によって、水分子は必ず構造内に入り込もうとします。

「呼吸」を構成する3つの物理ベクトル

ヴァルトが定義する「呼吸」には、明確な3つの物理メカニズムがあります。これら全てが機能して初めて、家は生物のような恒常性を持ちます。

  1. 透湿性 (Vapour Permeability):
    水蒸気が材料の微細孔を通過する能力。ここでの指標は「透湿抵抗値」です。多くの建材(レンガやコンクリート)はある程度の透湿性を持ちますが、これだけでは不十分です。
  2. 吸放湿性 (Hygroscopicity):
    これが最も重要かつ、現代住宅に欠けている要素です。相対湿度が上がった際に、水蒸気を材料の細胞壁内に取り込み(吸着)、乾燥したら吐き出す能力です。単に通すだけでなく、一時的に「バッファ(緩衝)」する能力が問われます。
  3. 毛管現象 (Capillarity):
    これは「液体としての水」を扱う能力です。壁内で結露したり雨水が浸入したりした際、その水を吸い上げ、広い表面積に拡散させて素早く蒸発させるポンプのような機能です。

「高気密(空気の漏れを防ぐ)」と「呼吸(湿気の移動を許容する)」は矛盾しません。むしろ、隙間風を止め、水蒸気と液体の移動ルートを確保することこそが、建物を腐敗から守る唯一のエンジニアリングなのです。

2. 断熱材の熱力学。グラスウールと木質繊維断熱材の「水」に対する決定的な差

テーマ:素材の科学・熱力学

「断熱材なんて、U値(熱貫流率)が同じならどれも同じ」と思っていませんか?
一般的な鉱物系断熱材(グラスウール等)と、私たちが採用する自然素材系断熱材(木質繊維等)の間には、水に対する挙動において決定的な物理的格差が存在します。

グラスウールの弱点:水に対して「無能」である

グラスウールやロックウールは「透湿性(通す力)」はありますが、「吸放湿性」と「毛管現象」の能力がほぼゼロです。
壁内で結露が発生した場合、水滴は繊維の間に留まり続け、断熱材の空隙(空気層)を水で埋めてしまいます。水を含んだ断熱材は熱伝導率が跳ね上がり、断熱性能が劇的に低下します。さらに、毛管現象がないため自力で乾く力が弱く、重力で下に落ちるか、隣接する木材を腐らせるまで留まり続けます。

自然素材の驚くべき「発熱反応(収着熱)」

一方、木質繊維(ウッドファイバー)、羊毛、セルロースといった自然素材は、相対湿度が50%から90%に上がった際、重量の約10%〜30%もの水分を吸着することができます(プラスチック系断熱材は0%です)。

さらに興味深いのは「収着熱(Heat of sorption)」という現象です。
ドイツのフラウンホーファー建築物理研究所の研究によれば、自然素材系断熱材は湿気を吸収する際に「熱(潜熱)」を放出します。
冬場、壁内の湿度が上がって断熱材が湿気を含むと、物理的には熱抵抗値が下がるはずですが、この発熱反応が冷えを相殺するため、実際の動的な環境下では、カタログスペック以上の温熱環境を維持できることが実証されています。

湿気を吸っても暖かく、濡れても自力で乾く。これが自然素材だけが持つ「ロバスト(堅牢)」な性能の正体です。

3. 壁内結露を防ぐ「セーフティネット理論」の計算式

テーマ:構造の安全性・施工リスク

現代の一般的な高気密住宅では、室内側にポリエチレン製のベーパーバリア(防湿気密シート)を貼り、湿気が壁に入らないようにします。理論上は正しいですが、現場の実態は異なります。私たちはこれを「時限爆弾」と危惧しています。

「完璧な施工」という幻想とリスク

英国の研究では、ポリエチレンシートによる防湿層は、コンセントボックスの穴、配管貫通部、あるいは経年劣化やDIYの釘一本で容易に破損することが指摘されています。
問題は、一度穴が開くと、蒸気圧差によって湿気が集中的に壁内へジェット噴射のように侵入することです。外側にOSB合板(透湿抵抗が高い)のような面材が貼られていると、入った湿気は逃げ場を失い、壁の中で「蒸し焼き状態」になります。これが壁内結露による内部腐朽のメカニズムです。

失敗を許容する「セーフティネット」の計算

家は実験室ではなく、人間が住む場所です。だからこそ、ヒューマンエラーを前提とした設計が必要です。ニール・メイ氏はこれを「セーフティネット(安全網)」と呼びます。

具体的な計算例を見てみましょう。
もし施工ミスがあり、冬の60日間で1m²あたり0.21リットルの湿気が壁内に侵入したとします。ビニールとグラスウールの壁では、この水は結露水として構造体を濡らします。
しかし、密度200kg/m³の木質繊維断熱材(厚さ100mm)を使用していた場合、その吸放湿容量は約2.0リットル/m²にも達します。

つまり、侵入する水分の約10倍の許容量(キャパシティ)を断熱材自体が持っているのです。
この圧倒的な「バッファ容量」があるからこそ、壁内に入った湿気は結露することなく断熱材に保持され、春になれば透湿して屋外へ放出されます。「入らせない(防湿)」のではなく、「入っても大丈夫(調湿・透湿)」な構造にする。これが、300年持つ家の条件です。

4. 機械換気だけでは防げない「冬の過乾燥」。健康を守る湿度40〜60%の維持方法

テーマ:健康・室内空気質(IAQ)

高気密住宅には24時間換気システムが義務付けられていますが、機械だけに頼る空気環境には「過乾燥」という副作用があります。

健康のゴールデンゾーン「湿度40〜60%」

室内の相対湿度が40%を下回ると、ウイルスやバクテリアの活性化、喘息のリスクが高まります。逆に70%を超えるとダニ(Dust mites)が爆発的に繁殖します。
しかし、冬場に機械換気で乾燥した外気を取り込むと、室内の湿度は容易に30%台まで下がります。

勝負は壁の表面「10〜20mm」で決まる

室内の湿度を安定させるために最も効果的なのは、壁や天井の表面から「最初の10mm〜20mm」にある素材の吸放湿速度です。
ここに吸放湿速度(Sorption speed)の速い素材 ——例えば未焼成の粘土(Clay)、無垢材、あるいは特定の自然素材ボード—— を使うことが重要です。

データによれば、粘土や木質繊維は、急激な湿度変化に対して石膏ボードやビニールクロスの数倍〜数十倍の速度で反応します。お風呂上がりや調理時の突発的な湿気を瞬時に「吸い込み」、乾燥時に「吐き出す」。このダイナミックな反応は表面数センチで起きています。

「低換気」こそが素材を活かす

実は、自然素材の調湿効果を最大化するには、機械による換気回数を必要最小限(Low air changes)に抑える必要があります。
「高気密」にして隙間風をなくし、「最低限の機械換気(デマンド換気など)」で酸素を供給し、「素材」で湿度を自律制御する。このバランスこそが、アレルギーや感染症に強い空気環境を作ります。

5. 断熱リフォームの失敗例。なぜ安易な内断熱で家がカビだらけになるのか?

テーマ:リノベーション・結論

「Breathability」の理論は、新築以上に、既存住宅のリノベーション(断熱改修)でその真価を発揮します。特に、古い家の寒さ対策として安易に行われる「内断熱リフォーム」には、致命的な罠があります。

呼吸を止めた家の末路(インターナル・インシュレーションの弊害)

無断熱の古い壁(レンガやコンクリート、土壁)の内側に、透湿しない発泡プラスチック断熱材を貼り付けるリフォームがよく行われます。
しかし、これは壁の呼吸を止める行為です。室内の暖かく湿った空気がわずかな隙間から入り込み、冷たい既存壁に触れた瞬間、結露が発生します。ビニールやプラスチックに阻まれて水は乾かず、リフォームから数年後には、壁の内側がカビ(Mould)の温床となる事例が後を絶ちません。

解決策:呼吸する内断熱と「毛管現象」

解決策は、既存の壁と「互換性(Compatibility)」のある素材を使うことです。
木質繊維断熱材のような「吸放湿・透湿・毛管現象」すべてを備えた素材を、既存の壁に密着させて施工します。
こうすることで、室内の湿気を断熱材がバッファーとして吸収し、既存の壁を通して外へ逃がすパスを確保できます。さらに重要なのは「毛管現象」です。万が一結露しても、水分を吸い上げて拡散させる力があるため、特定の場所がジメジメし続けるのを防ぎます。

結論:21世紀の最先端は「原点」にある

私たちが自然素材にこだわるのは、懐古主義ではありません。
最先端の建築物理学が、「機械による制御」よりも、物理特性を利用した「素材による自律制御」の方が、エラーが少なく、エネルギー効率が良く、長寿命であることを証明しているからです。

建物自体が呼吸し、住む人を守る。
ヴァルトの家づくりは、この科学的真実に立脚しています。

参考文献:Neil May, “Breathability: The Key to Building Performance”

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