第5回:“風”をなくすということ 『PS冷暖房システム』がもたらす究極の快適性
株式会社ヴァルト 代表の小野です。
この連載コラムでは、第1回の総論から始まり、「DAKO」の高性能窓(第2回)、「PAVATEX」の呼吸する断熱材(第3回)と、私たちが家の「器(うつわ)」そのものの性能をいかに高めているかをお話ししてきました。
熱が逃げない(あるいは入ってこない)高性能な魔法瓶のような家が実現できれば、冷暖房に必要なエネルギーは最小限で済みます。しかし、その「最後の仕上げ」である冷暖房機器の選び方を間違えると、せっかくの快適性が台無しになってしまいます。
皆様が最もよく知る冷暖房、それは「エアコン」でしょう。
エアコンは「強制対流式」と呼ばれ、強い風を起こして空気を循環させ、無理やり室温を調整します。この「風」こそが、多くの不快感の原因となっています。
・足元は寒いのに、顔だけがほてる(温度ムラ)
・肌や喉が乾燥する(過乾燥)
・風が体に直接当たり続ける(ドラフト感)
・運転音が耳障り
・ホコリやアレルゲンが室内に舞い上がる
私たちは、これらの問題を根本から解決し、「本当に上質な快適さ」を実現するために、従来のエアコンとは全く異なる原理のシステムを採用しています。それが、「PS冷暖房システム(ピーエス)」です。
PS冷暖房は、風を一切使わない「放射式(輻射式)」のシステムです。
「放射(輻射)」とは、熱が電磁波(遠赤外線)によって直接モノに伝わる現象です。皆様が冬に太陽の光を浴びて「陽だまり」の暖かさを感じたり、薪ストーブの前に立つと体の芯から温まるのも、この放射(輻射)のおかげです。
PS冷暖房は、室内に設置された美しいデザインのパネルヒーターの中を、夏は冷水、冬は温水が循環する仕組みです。
冬、パネルから放射される遠赤外線は、空気ではなく、室内の壁・天井・床、そして人体を直接暖めます。逆に夏は、壁や人体から発せられる熱を、冷たいパネルが「吸い取って(吸収して)」くれます。
このシステムがもたらす室内環境は、エアコンとは別次元のものです。
1. 風も音もない、絶対的な静けさ
送風ファンが存在しないため、不快な風や運転音は一切ありません。ホコリやカビの胞子が舞い上がることもなく、アレルギーをお持ちの方にも理想的な、図書館のような静かでクリーンな環境が実現します。
2. 陽だまりのような均一な暖かさ
放射熱は家全体を均一に暖めるため、床から天井までの温度ムラがほとんど発生しません。エアコン暖房にありがちな「頭熱足寒(ずねつそっかん)」とは無縁の、陽だまりに包まれているような快適さが続きます。
3. 湿度を保ち、乾燥を防ぐ
PS暖房は空気を直接加熱しないため、室内の湿度を過度に奪いません。第3回でお話ししたウッドファイバーの調湿性能と組み合わせることで、冬場の過乾燥を抑え、肌や喉に優しい環境を保ちます。
もちろん、このシステムには専門的な側面もあります。例えば、冷房時にパネルを冷やしすぎるとパネル表面で結露が起きてしまうため、PS社は湿度も同時にコントロールする「除湿型放射冷暖房(PS HR-C)」という高度な技術でこの問題を解決しています。
【結び】
「結露させない」という理念から始まった私たちの家づくりは、「DAKO」の窓で熱の出入りを断ち、「PAVATEX」の断熱材で壁を呼吸させ、そして最後に「PS冷暖房」で風をなくし、上質な室内環境を実現することで一つの完成形を迎えます。
これら全てが、私たちが提唱する「Breathability(呼吸する家)」という理念のもとに、一つのシステムとして機能しているのです。
5回にわたり、ヴァルトの家づくりの核についてお話しさせていただきました。皆様の家づくりにおいて、「本当の快適さとは何か」を考える一つのきっかけとなれば幸いです。お読みいただきありがとうございました。