第4回:家も“賢く”呼吸する 過乾燥と熱損失を防ぐ『デマンド換気』という最適解
株式会社ヴァルト 代表の小野です。
第2回では「窓(DAKO)」、第3回では「断熱材(PAVATEX)」と、家の「器」そのものの性能をいかに高め、結露を防ぎ、湿気をコントロールするかについてお話ししました。
高性能な窓と、呼吸する壁を採用することで、家の「気密性(C値)」は非常に高まります。(※PAVATEXは湿気を通しますが、空気は通しません。)
この「高気密」な家において、絶対に必要不可欠となるのが「換気システム」です。
現在の日本の法律では、シックハウス対策として、家全体の空気が2時間で1回入れ替わるよう、24時間換気システムを稼働させることが義務付けられています。
しかし、この「24時間ずっと同じ量で換気し続ける」という仕組みには、特にヴァルトのような高性能住宅において、大きなジレンマが伴います。
それは、冬場に発生する「過乾燥」と「熱のロス」です。
例えば、真冬の外気温が0℃、湿度が30%だとします。
室内の快適な空気が20℃、湿度50%だとしても、換気システムは容赦なくその暖かい空気を屋外に排出し、代わりに冷たく乾燥した外気を取り込み続けます。
その結果、何が起こるでしょうか。
室内は暖房で温めてもすぐに熱が奪われ、同時に過度に乾燥していきます。皆様が冬場に経験する「エアコンをつけると喉がカラカラになる」という現象は、エアコン自体の影響だけでなく、この「過換気」による乾燥が大きく影響しているのです。
この問題を解決するために、私たちは「必要な時に、必要な量だけ」を換気する、フランス生まれの「湿度感知型デマンド換気システム」に着目しています。
「デマンド(Demand)」とは「要求・必要性」という意味です。
このシステムは、室内の空気の状態を常に監視し、空気の汚れ(特に湿気)に応じて換気量を自動で調整(コントロール)します。
その仕組みは非常にシンプルかつ合理的です。
従来の24時間換気が家全体に一つの大きな換気扇を回し続けるのに対し、デマンド換気は各部屋の排気口に「湿度センサー」を内蔵しています。このセンサーは電気を使いません。ナイロンリボンが湿気を吸うと「伸び」、乾燥すると「縮む」という物理的な原理を利用しています。
例えば、家族がお風呂に入ったり、キッチンで料理をしたり、あるいは寝室で就寝したりすると、人の呼吸や活動によって局所的に湿度が上がります。
その湿気をセンサーが感知すると、自動で排気口の弁が「開き」、汚れた空気を排出します。そして、室内の湿度が快適な状態に戻れば、弁は自動で「閉じて」いきます。
この「賢い」換気システムがもたらすメリットは計り知れません。
1. 過乾燥を根本から防ぐ 室内の湿度が快適な範囲(例えば40%〜60%)に保たれている時、換気システムは換気量を最小限に絞ります。これにより、冬場の不必要な換気がなくなり、室内の「潤い」が保たれます。これは、第3回でお話ししたPAVATEX(ウッドファイバー)の調湿性能や、第5回でお話しするPS暖房の「乾燥させない」特性と完璧に噛み合います。
2. 圧倒的な省エネルギー性能 従来の換気システムが捨てていた「熱」(暖房で温められた空気)の損失を、最小限に抑えることができます。データによれば、一般的な24時間換気に比べ、暖房エネルギーを最大で約50%も削減できるという試算もあります。
3. 常にクリーンな空気を維持 家族が在室し、活動している(=CO2や湿気が発生している)時はしっかり換気し、誰もいない部屋や活動していない時間帯は換気を休む。このメリハリによって、家の空気は常に「必要なだけ」クリーンな状態に保たれます。
第3回で「壁が湿気を呼吸する」というお話をしましたが、このデマンド換気は「家全体が、人の活動に合わせて賢く呼吸する」仕組みと言えます。
「呼吸する家(Breathability)」とは、高性能な「器」と、その中で無駄なく快適に空気を循環させる「システム」が両立して初めて完成するのです。
第5回:“風”をなくすということ 『PS冷暖房システム』がもたらす究極の快適性 ▶︎
