社長コラム

ヴァルトの家の性能や家づくりについて具体的に紹介します。

社長コラム

ヴァルトの家づくりの鍵 Breathability

ヴァルとの家づくりの鍵 Breathability

1.高気密・高断熱は万能ではない

省エネルギー対策のひとつとして、高気密・高断熱を強化する動きがあります。断熱性能の目安である、次世代省エネルギー基準を大きく凌ぐ断熱仕様の家が実用段階に入っています。
しかし、高断熱高機密を図った結果、内外の温度差による結露の可能性も同時に高まることも忘れてはなりません。
また、断熱材をただ厚く施工しただけの断熱仕様だと、夏の日射による熱がこもり夜間になっても暑さが引かないという状況が起こることがあります。
そこで思い出してほしいのが、古民家における夏の涼しさです。分厚い茅葺き屋根と風抜けの良い高い天井、質量のある土壁と土間、そして家中吹き抜ける自然の風。周囲には適切な屋敷林。動力を使わずに、夏涼しく過ごすための全てが揃っていました。
では、昔の家のように断熱材を用いない家でないと涼しく過ごすことができないのでしょうか。

◎Breathabilityをもたせた理想的な外壁構造例(弊社標準仕様)

2.熱容量の大きな素材の効果

現在の断熱材の中に、木質繊維断熱材があります。これは発泡系断熱材やグラスウールとはまた違う性質があり注目されています。
木質繊維系断熱材の優れた特徴の一つに、夏の急激な壁面温度上昇を室内に伝え難いという性質があります。断熱材の温度上昇により断熱材内部の含まれていた湿気が蒸発します。この蒸発する時の気化熱で断熱材自体の温度の上昇が抑えられることも確認されています。また発泡系の断熱材より質量が大きいので他の断熱材に比較し熱容量が格段に大きいという特長があります。そのため急激な温度上下を緩和する働きがあります。実験結果のグラフをご覧下さい。

◎実験結果グラフ

◎実験装置の写真

この実験は写真のように、それぞれの素材で作った箱の上から照明で断熱材を暖め、断熱材の中の温度を計るという実験です。7:45に照明スイッチを入れ、17:45頃スイッチオフ、その間測定したものが上のグラフです。
この結果から単に断熱素材の熱伝導率のみの比較では、実際の断熱性能を比較できない事がわかり、木質繊維断熱材のバランスの良さが確認されたと考えられます。

断熱材と言えば従来は素材の熱伝導率と厚みだけで考えられてきました。最近はヨーロッパではその断熱材の持つ熱容量が重要視されるようになってきています。
断熱材は伝導率の高低に関わらず、どちらの場合も時間の経過とともに熱は伝わります。つまり断熱とは「熱の移動を遅らせる役割」をしてきたと言えます。

このような中で断熱材がどれだけ熱を蓄えられる能力があるのかという熱容量に関しては、あまり議論されてきませんでした。熱容量の大きな断熱材であれば、それだけ熱の移動を遅らせることが可能になり、熱容量は熱伝導率と同等以上に大事な要素です。EUでは熱伝導率と単位体積当たりの熱容量(=容積比熱)のバランス比として温度拡散率(=熱伝導率÷容積比熱)を重要に考え断熱材を選択しています。

3.熱の伝わり方と遮熱

遮熱を考える前に、熱の伝わり方について確認をしておきます。熱の移動(伝わり方)には対流、伝導、輻射(放射)があります。

対流:
対流とは暖められた空気や水が上昇することにより循環し発生する熱移動です。空気を細切れにし移動しにくくする断熱材の性質はこれを逆利用するものです。
対流」を抑えるためには、気体または液体自体を流動しないようにします。
この仕組みを利用しているのが断熱材で、泡状に微細な空気を閉じ込めた部屋の集合体の断熱ボードです。
断熱サッシの窓枠部分の構造でも、内部にできるだけ小さな空気室を設けることで、枠自体の断熱性能を高めることができます。

伝導:
伝導とは物体を伝わって行く熱移動です。直接触れることにより移動するものや、物質の表面から中側に移っていく熱の移動を指します。
「伝導」を抑えるには、熱の伝わる物質を切り離すことです。
魔法瓶のように、内側素材と外側素材を中空の空間を挟み込み、外側と内側の素材を物理的に切り離すことで、伝導熱を遮っています。しかし、「輻射(放射)」は、外側素材から内が素材に熱が放射して移動するので、完全に熱を遮ることはできません。中空の空間に空気などの場合では、さらに伝導で熱の伝わりが加えられます。

輻射:
輻射とは太陽の赤外線や熱線、電磁波が物体に当たるとその物体はそのエネルギーを得て輻射熱を持ちます。そして熱を持ったその物体自身からさらに輻射熱を発するようになります。それは空気を解さなくとも光のような伝わり方をします。
「輻射」を抑えるには、光・熱線を遮ること。
遮光カーテン、ヨシズ、雨戸など、光を遮ることで、輻射による熱伝導(移動)を遮ることができます。
複層ガラスサッシでは、複層にすることで、外側のガラスと室内側のガラスが、中間のガスまたは真空空間で切り離されているので、伝導熱は抑えることができますが、輻射熱を遮ることはできません。


※ 従来の住宅の断熱の概念ではほとんど対流と伝導しか考えてきませんでした。しかしながら、住宅の熱移動は平均、伝導による移動が40%あれば輻射も同じ40%以上あると言われています。さらに、ペンシルバニア州立大学の報告では住空間に及ぶ熱の伝達は輻射が家全体の熱移動の75%に及ぶとされています。

4.体感温度

人間が感じる、暑い、寒い、涼しい、と感じる感覚は、単に室内室温だけで決まるものではありません。その部屋を囲む周壁(天井、壁、床、窓)の温度また空気の流れによって変わります。

夏の場合、室温28℃としても仮にガラス窓や壁が40℃あれば体感温度は暑く感じられ、冷房をして室温を大幅に下げたい状況になります。
つまり冷暖房では、室内の空気を加熱する「対流熱」より、周壁を暖める「放射熱」を利用する方が効率良く、体にも心地よく感じられるはずです。

つまり居心地の良い住空間をつくる為には、エアコンのような対流熱を使った室温のコントロールに頼るのでなく、室内の周壁(床、壁、天井)の放射熱を利用した方が人体にはるかにやさしいと言えます。それを現実的に表現すると、周囲の温度と室温が近づいた状態で安定することが大切だと言えます。断熱や遮熱技術を使い、なるべくエネルギーを使わないで実現できれば理想です。現在既存の暖房装置の中では、放射熱を利用したパネルヒーターがより理想的な暖房と言えます。

※ 参考:関連情報記事
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO94483310X21C15A1000000

5.Breathability

省エネルギー対策になくてはならない軸となるのは、Breathability
一般的な表現では湿気対策を指します。これは伝統的な日本建築では多くの場合理想的にコントロールされていました。しかし近代住宅建築においては、ともすると忘れがちな事柄になっています。高気密を目指すがゆえに、防湿層など湿気の通過できない層が壁の中に出現しているものも見受けます。

これは、壁の中に湿気を入れないための工法ですが、万が一湿気が侵入した場合には、逆に閉じこめる結果になり構造体の劣化スピードを逆に速める事に繋がり兼ねないのです。

◎湿気の通過を遮ると、遮られた場所(内外の温度差により)で結露の可能性が生じる
※ 1mm幅で1mの長さの隙間が生じた場合、360g/1日の水分が壁内に侵入する。


Breathability は新築の設計施工・改修工事において最も重要なことです。それは建物と居住者の健康に大きな影響を及ぼすからです。例えば古い建築をリフォームするとき、非Breathability施工をすると、それまで備わっていた断熱性能や、Breathabilityを損ない又は低下させ、構造体そのもの劣化速度を速めることにもなりかねません。ひいては建築物の解体時期を早めることにもなり地球環境への付加を増大することになります。

Breathability をもつ典型的な材料は、自然素材であり伝統的なものでもあります。自然環境に負担の軽い素材を適切に使用することで、環境にやさしく省エネルギーにも優れた建物が可能になります。
新築・解体サイクルを長くすることができ、資源の有効活用に繋がるからです。仮にサイクルを2倍にすることができたとすると、建材使用量及び労力を半分に削減したことと同じになるからです。

断熱材が鉱物系(グラスウール・ロックウールなど)では、断熱材に対し水分量の僅かな上昇で断熱性能は大きく低下します。水の分子が断熱材の隙間に侵入し熱橋(ヒートブリッジ)を引き起こすからです。
日本では、断熱材の性能を算出するときその湿度をほとんど考慮していませんが、ヨーロッパの断熱先進国では、湿度の変化により断熱性能は変化するもととして扱っています。

Breathability のある構造体では湿気は構造体に害が生じる前に外部に排湿されます。ドイツの法律ではこのことについての対策が明確に定められています。Breathability のない壁を作るときは構造体の防腐処理が義務付けられています。これは、自然環境保全や省エネルギーに反する建築物を根絶するための、国家を上げての取り組みの例です。

必要な呼吸性能(Breathability)と健全な室内環境を備えた建物を建築することは特に難しいことではありません。 Breathability のある材料はすでにヨーロッパの多くの国で一般的に実践・使用されています。また伝統的な建物では当然のように使われてきています。それらの建築では、バランスのとれたシンプルなデザインと、Breathability に配慮された材料が広く使用されています。自然材料の使用そしてそれを使用した工法はすでに多数施工され、それは長年の実績と追跡調査により資源保護の観点からも、エネルギー効率の側面からもベストであるとすでに証明されていると言ってよいでしょう。

私たちの建築物と私たち自身の健康のために、Breathability の適切な理解と実践が不可欠です。このような方法で確実にエネルギー効率を改善して、建物の失敗を減らし、そして多くの健康上の問題の根本的な原因を撃退することができます。ひいては、地球環境保全にも役立つのです。